ミュージアムパーク茨城県自然博物館で開催されている『地衣類展』に行ってきました。
11月3日にはゲッチョ先生こと盛口満先生の講演会もあり、そちらも参加することができたので、展示と合わせてさらに理解が深まりました。
地衣類はコケのお隣さん的存在。コケ屋としてはわりと知っているつもりでいましたが、「そうだったのか!」と目からウロコな気づきもたくさんありましたので、まとめたいと思います。
展示の詳細はこちら。

会期は2023年10月7日~2024年1月21日までです。
ゲッチョ先生の地衣類の本といえば!
地衣類ってなんなのよ
地衣類=菌類の一種!
学校で習う知識としては、『地衣類とは、菌類と藻類が共生しているいきもの』。
私もその認識でした。今回の展示と講演会を聞いて一番ハッとしたのは、
『地衣類とは、藻類と共生する生き方を選んだ菌類の総称』であるということ。
つまり主体は菌類なんですね。ゲッチョ先生は講演会の中で、「キノコの中の変なやつ」と称されていました。
菌類の中で、藻類と生きることを選んだヤツら

菌類は、大きく分けて担子菌類と子嚢菌類というグループがあります。いわゆる我々が知っているキノコ(松茸とかシメジとか)はだいたい担子菌類です。
地衣類になっているのは、主に子嚢菌類。地衣類のうち99.6%は子嚢菌類なのだそうです。しかし0.4%は担子菌類で地衣類をやってるヤツもいるということですね。
つまり、菌類の中のこのグループが地衣類ですよ、ということではなく、いろんな系統の菌類の中で”地衣化した”種類がいるということ。
(なんと、一度地衣化したけどやめて単独に戻った菌類もいるらしい。藻類との共同生活がうまくいかなかったのでしょうか…)
地衣類は菌類と藻類が共生している形なわけですが、学名は菌類の学名です。中にいる藻類には別に学名がつけられているのだそう。やっぱり主体は菌類なんですね。
※子嚢菌類の中にはあの「冬虫夏草」も含まれています。藻類を取り込んだり、虫に寄生したり、子嚢菌類はなかなか独特な生き方をしているってことですね。
胞子を飛ばすのは菌類のみ

地衣類もコケと同じく、無性芽的なものでふえる無性生殖と、胞子でふえる有性生殖があります。
無性芽(粉芽などと呼ばれます)は菌類と藻類が一緒になった状態のミニチュアなので、いわば自分のクローンです。
ところが、胞子でふえるのは菌類のみ。つまり胞子が飛んだ先でまた共生する藻類に出会わなければ地衣になれないのです。えー、そんな偶然うまく起きるものなの?
(ところがどっこい、菌と藻類の関係は必ずしも1対1ではないものもあるらしい。つまり新たなパートナーでもいいってことなんだろうか。このへんはまだ理解がうまくできていないです)
地衣類展のみどころ
さて、今回の地衣類展のみどころをいくつかピックアップしてみましょう。
まずは豊富な標本で地衣類がなんなのかがよくわかります。こちらはガードレールやベンチをまるごと展示したもの。


ああ、こういうシミみたいなやつ、見たことある!これが地衣類なのか…と理解できるでしょう。
パネル展示をしっかり読めば、地衣類の生態や暮らしぶりなどの基本がばっちり学べます。
そして、地衣類と人間の関係についての展示も興味深い。
薬として、染料として、スパイスとして、食料として、装飾品として。古くから人間は地衣類を利用してきたんですね。

理科の実験でpHを測るために使ったリトマス試験紙も、リトマスゴケっていう地衣類の物質からできているんです。知ってた?
子どもたちにも大人気のフォトスポットは、地衣類に擬態する虫になりきれるコーナー。

コケの世界にもコケに擬態する虫がいましたが、地衣類に化けている虫もいるのです。体中に地衣類のかけらをまとって地衣類のふりをしているシラホシコヤガのVTRや、中南米にいるサルオガセに擬態するサルオガセツユムシのカッコいい食事シーンのVTRも見られます。

シラホシコヤガリュックを背負って、地衣類に擬態するキモチを味わいましょう。
個人的に気になったこと
地衣類につく名前

コケ屋としては、「〇〇コケって名前がつくけど、これはコケじゃなく地衣類なんですよ」でおなじみの地衣類。
地衣類のうち実に7割は、〇〇コケと名前がついているのだそうです。古く日本人は木に付いている小さいものを「木毛(コケ)」と呼んでいたそうなので、まあ、確かにコケだよね。
標本を見ていると、「〇〇ノリ」も多かったです。岩に付いていたりすると海苔っぽいもんね。「〇〇タケ」もあります。これは体が大きく、キノコっぽく見えるからなのでしょう。
地衣類がなんだかわからなかった昔の人にとっては、コケかノリかキノコの仲間だろう、って感じだったんだろうな…と付いている名前を見て思いました。
食べられる地衣類「イワタケ」。だけど…

食材として食べられているイワタケの展示では、下ごしらえの仕方がVTRで流れていました。
それによると、イワタケを下茹でしたあと、上皮層と藻類の層をこそげ落とすように取りのぞくとのこと。
藻類の層を取り除くってことは、それってもう地衣類ではないのでは!?それはつまりキノコ(菌類)なのでは!?
地元の人にとっては「表面をごしごし洗わないと旨く食えないキノコなのよ~」って感覚だったのでしょうが、地衣類視点では衝撃だよなーと一人で興奮したのでした(私だけ?)。
まとめ
知っているつもりだったけど、いろんな発見があった地衣類展。ふだんからコケとか虫とか見ている人にとっては隣人なので、興味をもって見ると新たな世界が広がるかと思います。
会期も来年1月21日までと長いので、いきもの好きな方はぜひ行ってみてください。
展示概要

地衣類-木を、岩を、地面を彩る身近な生きものー
場所:ミュージアムパーク茨城県自然博物館
会期:2023年10月7日~2024年1月21日
最寄り駅の守谷駅は、秋葉原からつくばエクスプレスに乗って30分ほど。ただし、守谷駅から博物館までの足が少なめなので、バスの時刻表をよく調べてから行った方がよいです。数人でタクシー乗り合いとかが良いかもしれません。(ほんと、いい植物園とか博物館の足のなさはなんとかしてほしいところ。博物館からマイクロバスとか出せないんですかね…)
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地衣類は本当にどこにでも生えているので、お散歩がてら地衣類を見てわかるようになりたい!という方にはこのハンドブックがおすすめ。
この記事内の地衣類の写真は北八ヶ岳で撮影したものです。北八ヶ岳は地衣類がすごかった!寒い地域の方が大型で見ごたえのある地衣類が多いそうです。