『彼らが本気で編むときは、』映画館で観てきました。
公開前情報から気になっていたのは、なんといっても生田斗真の美しい女装姿です。これは見たい。
そんな不純な気持ちで見に行きましたが、なかなかチクリと刺さる内容で見ごたえがありました。
予告編
荻上直子監督の最新作!
「かもめ食堂」「めがね」「レンタネコ」などで知られる、荻上直子監督の最新作。
身体は男性だけど心は女性、いわゆるトランスジェンダーのリンコさん(生田斗真)。彼女を愛して支えるマキオ(桐谷健太)。
育児放棄気味のシングルマザー(ミムラ)に育てられているマキオの姪っ子・トモが、母親の家出をきっかけに二人の家で暮らすことになるところから物語は始まります。
美味しい手料理、かわいいキャラ弁、愛情たっぷりに接してくれるリンコさんに、次第に心を開いていくトモ。
同時に、リンコさんを差別する目やイジメにもぶつかります。
トモの同級生であるカイくん家族や、トモの祖母であるサユリのエピソードも交えつつ、3人の暮らしが綴られます。
これはむしろ、母と娘の物語。
以下、ネタバレも含みますので観てない方はご注意を。
観終わった感想は、「トランスジェンダーというより、母と娘の物語だな」ということ。
物語の中には4組の母娘(息子=心は女性、を含む)が登場し、その対比が鮮やかです。
1.トモ(柿原りんか)―トモの母(ミムラ)
2.トモの母(ミムラ)―トモの祖母(りりィ)
3.リンコ(生田斗真)―リンコの母(田中美佐子)
4.カイ(込江海翔)―カイの母(小池栄子)
トモの母親はトモを置いてふらりとどこかへ行ってしまうような母親です。子供への愛情は薄い。
トモは諦めつつ、愛される期待を捨てきれない。
そんなトモの母親も、自分の母親との間に確執がある。浮気をして出て行った父親を待ちながら母親がやっていた編み物を嫌い、今もニットを買わない。
両親の不仲を敏感に感じ取っていたことがうかがえるエピソードです。
トモの同級生であるカイくんは、男の子を好きになってしまう自分に戸惑いを感じていますが、母親はそんなカイくんを全く認めない。
リンコさんのことも、「普通じゃない」と切り捨てます。
それに比べて、リンコさんの母親の愛情深さたるや!
トランスジェンダーに苦しむリンコさんを子どもの頃から認め、全面的に味方になる。
リンコを傷つけたら容赦しない、と初めて会ったトモに言ってのけます。
トランスジェンダーはあんまり関係ない?
トランスジェンダーであることで、つらい思いや苦しい思いをしてきたことはもちろん描かれているのですが、途中からそれはどうでもいいことのように思えてきました。
生田斗真のリンコさんはあまりにも自然に女性なので(生田斗真すごいです)、うっかり身体だけ間違って生まれてしまったんだろな、とすんなり納得できる。
この人が男でも女でもどちらでもよく、「つらいことを乗り越えたからこその優しさのある人」だというだけだな、と。
リンコさんは理解ある母親(とその恋人、この映画には「父親」は登場しません)、理解ある恋人マキオに囲まれ、登場人物の中で最も満たされている人のように見える。
家族や周りの人に理解され愛されていることで、他人にも愛情深くなれる、ということなのかなあ。
だとしたらトモや、トモの母親や、カイくんは??
まとめ。
全体として後味は悪くないし、荻上監督らしいほのぼのしたシーンや美味しそうな食卓は変わらず健在(フードスタイリストは飯島奈美さんです!)。
ほっこりするシーンもたくさんです。
でもよく考えると何も解決してないし、トモやカイくんのこれからはさぞ前途多難だろうなあ…とつらくなったりもして。
個人的にはカイくんがとても可愛くて、一番辛そうな立ち位置で(小池栄子の理解なき母親っぷりが恐ろしい!)、これから先つらいだろうけど頑張って生きていってほしいなーと思いました。
あれ、そういう映画なんだっけ?
ノベライズ版も出てます。